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あなたにある程度資産があれば、相続税と節税が重要です(3)

あなたにある程度資産があれば、相続税と節税が重要です(3)

(2からの続き)

12,次に、孫を外国籍にして、贈与税を回避しようとした中央出版事件です。名古屋高裁、平成25年4月3日判決(その後、最高裁による上告棄却および上告不受理決定)。中央出版

 

中央出版元会長の息子の妻が、出産前に渡米して男児を出産。この孫にアメリカ国籍を取得させます。
中央出版の元会長は、この孫を受益者とし、国外財産である米国債(約500万ドル)を信託財産として米国の信託会社に信託し、これを生命保険へ投資する信託契約を締結し、満期保険金または息子(孫の父)を被保険者とする死亡保険金で信託の受益者である孫に利益を分配させる契約を締結します。
ここでは、受益者である孫は、外国籍で、信託行為時には、アメリカに居住しています。
対象財産は、国外財産です。
この事案では、税務当局は、実質的に、祖父から孫へ贈与したものとして、贈与税約3億1000万円追徴課税し、孫がこの処分を争ったものです。
名古屋地裁判決(平成23年3月24日判決)では、本件信託が旧相続税法4条1項の信託行為に当たることを認めつつも、孫は同条1項にいう受益者に当たらないものとして、贈与税処分を違法として取り消します。

 

これに対して、名古屋高裁判決(平成25年4月3日判決)では、孫の方が、 贈与と同様の経済的利益を得て初めて贈与とみなされるのであり、本件では経済的利益が確定的に孫に帰属していないのだと主張して争いました。
判決は、「相続税法4条1項の規定は、・・・・受託者が他人に信託受益権を与えたときは、現実に信託の利益の配分を受けなくても、そのときにおいて信託受益権を贈与したものとみなして課税する趣旨である。」「受託者は自己の裁量により、孫が生存する限りにおいて、その教育、生活費、・・妥当と思われる金額を・・・支払うとしているのであるから、孫は信託受益権を有する者」と認められるとしました。
住所についても、武富士の最高裁判所の判決を引用して、孫は8ヶ月の乳幼児であるから、両親の本拠地によるべきだとして、名古屋市にあったと判断しました。

13,以下は、現在の相続税法です。

第一条の四   次の各号のいずれかに掲げる者は、この法律により、贈与税を納める義務がある。

一   贈与により財産を取得した個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有するもの

二   贈与により財産を取得した次に掲げる者であつて、当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有しないもの

イ 日本国籍を有する個人(当該個人又は当該贈与をした者が当該贈与前五年以内のいずれかの時においてこの法律の施行地に住所を有していたことがある場合に限る。)
ロ 日本国籍を有しない個人(当該贈与をした者が当該贈与の時においてこの法律の施行地に住所を有していた場合に限る。)

三   贈与によりこの法律の施行地にある財産を取得した個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有しないもの(前号に掲げる者を除く。)

2   所得税法第百三十七条の二 (国外転出をする場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)又は第百三十七条の三 (贈与等により非居住者に資産が移転した場合の譲渡所得等の特例の適用がある場合の納税猶予)の規定の適用がある場合における前項第二号イの規定の適用については、次に定めるところによる。

一   所得税法第百三十七条の二第一項 の規定の適用を受ける個人が財産の贈与をした場合には、当該贈与に係る贈与税の前項第二号イの規定の適用については、当該個人は、当該贈与前五年以内のいずれかの時においてこの法律の施行地に住所を有していたものとみなす。

二   所得税法第百三十七条の三第一項 の規定の適用を受ける者から同項 の規定の適用に係る贈与により財産を取得した者(以下この号において「受贈者」という。)が財産の贈与(以下この号において「二次贈与」という。)をした場合には、当該二次贈与に係る贈与税の前項第二号イの規定の適用については、当該受贈者は、当該二次贈与前五年以内のいずれかの時においてこの法律の施行地に住所を有していたものとみなす。ただし、当該受贈者が同条第一項 の規定の適用に係る贈与前五年以内のいずれの時においてもこの法律の施行地に住所を有していたことがない場合には、この限りでない。

三   所得税法第百三十七条の三第二項 の規定の適用を受ける相続人が財産の贈与をした場合には、当該贈与に係る贈与税の前項第二号イの規定の適用については、当該相続人は、当該贈与前五年以内のいずれかの時においてこの法律の施行地に住所を有していたものとみなす。ただし、当該相続人が同条第二項 の規定の適用に係る相続の開始前五年以内のいずれの時においてもこの法律の施行地に住所を有していたことがない場合には、この限りでない。

(贈与税の課税財産の範囲)
第二条の二   第一条の四第一項第一号又は第二号の規定に該当する者については、その者が贈与により取得した財産の全部に対し、贈与税を課する。

2   第一条の四第一項第三号の規定に該当する者については、その者が贈与により取得した財産でこの法律の施行地にあるものに対し、贈与税を課する。

14, 一読しただけでは、理解できません。ワープロソフトを使い、コピーして、主語、述語、修飾語に分ける必要があります。括弧書きも分けます。
その上、突如「この法律の施行地」という表現が出てきます。国内と言えばいいものを、このような表現で、思考が止まります。相続法付則や施行令の付則を見ると「この法律は、本州、北海道、四国、九州及びその附属の島(政令で定める地域を除く。)に、施行する。」、さらに「 法附則第二項の規定により法の施行地域から除かれる地域は、当分の間、歯舞群島、色丹島、国後島及び択捉島とする。 」と定められています。要するに国内のことです。

日本の法律を外国で効力を持たせることはできません。そんなことを主張すれば、外国国家の主権の侵害です。当たり前のことをことさら訳がわからない表現で定めるため、余計わからなくなります。

仮に、民法にこのような定めがあったら、「わかりにくい!」ということで、国会で成立しないでしょう。
税法は「由(よ)らしむべし、知らしむべからず」です。
国税当局が、武富士の事件で敗訴したのも、自分で法律を作っておきながら、「住所」の意味が十分わかっていなかったのかもしれません。余りに複雑だと、却って「穴」が出てきます。

投げ網みたいに、何もかも課税しようとすると、他国、例えば、アメリカの課税権を侵すことになります。租税条約で調整する、外国税額控除で調整するといっても、条約を締結していない国もあります。
日本の税務当局にしても、語学の制限があり、外国の税法を知っている人はわずかで、しかも分担し、いくつかの主要国だけでしょう。

税の申告で、他国の税法まで調査するのは、海外に進出している企業くらいで、個人としては、結局、自国や財産のあるところの税法に従うだけでしょう。どこまで調べるかは、財産の価格次第です。
こういう次第で、税理士に相談するのがベターです。税理士も、責任がありますから、調査に時間を要し、相当な費用をいただかないと、答えられません。インターネットのタダの情報を判断の根拠にするのは危険です。

話を贈与税に戻すと、第一条の四 で、 贈与税を納める義務者、つまり贈与を受けた人(受贈者)を規定している中で、これまた、突如、括弧書きで

「イ 日本国籍を有する個人(当該個人又は当該贈与をした者が当該贈与前五年以内のいずれかの時においてこの法律の施行地に住所を有していたことがある場合に限る。)」

と贈与者の条件を定め、贈与者が、過去5年以内に日本にいれば、受贈者に贈与税を課す、となっています。これも、論理的に混乱します。贈与者について、過去5年以内に日本に住所を有することを条件とするのであれば、項を改めて規定すべきでしょう。一読しただけでは、理解できません。立法の専門家である法制局が関与してできあがっているのでしょうが、わかりにくいです。ともかく、これで、武富士や中央出版事件のような租税回避はできなくなります。

15,税金を逃れるために国籍を移すという事件は、フランスを代表する俳優ジェラール・ドパルデューの事件が有名です。彼は、フランスの高額所得税を嫌がり、所得税一律13%のロシアへの移住を希望し、プーチン大統領は、2013年、彼にロシア国籍を与える大統領令に署名しました。

最近は、税金が安いシンガポールへ移住したい富裕層もいるようですが、シンガポールには兵役の義務があります。兵役を拒否すれば、国籍を剥奪されます。税金だけの問題ではありません。

16,ただ、これまで、蓄財に励んできた人が、自分の命がもうすぐなくなるという場合、「相続税」とか「節税」とかを考える余裕はあるんでしょうか? 自分が死ぬと言うことはどういうことかと不安と恐怖で一杯になるんではないでしょうか?
人それぞれで、その場になってみなければわかりません。

(ご注意):以上は、概略を記載したもので、内容の正確性は担保しません。それぞれいろいろな条件・例外があり、かつ頻繁に改正がありますので、弁護士・税理士等へご相談ください。

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