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銀行の相殺が認められなかった例(2)ー投資信託受益権ー最判H26.6.5

銀行の相殺が認められなかった例(2)ー投資信託受益権ー最判H26.6.5
投資信託受益権と相殺

投資信託受益権と相殺

再生債権者たる銀行が、再生債務者の銀行に対する投資信託解約による支払請求権を受働債権として相殺することは許されないとした最判H26.6.5。

1、最近、「貯蓄から投資へ」の流れに沿って、資産を預金ではなく投資信託として所有する例が増えています。遺産の中に、投資信託受益権・MMFがある場合については、別記事で述べました。
本件は、大雑把に言えば、銀行の取引先が銀行を通じて投資信託していたところ、同取引先が民事再生を申し立てたため、銀行が、取引先に対して持っていた再生債権を自働債権とし、再生債務者が持っている受益権の解約金支払請求権を受働債権として、相殺できるか、という問題です。
問題は、再生債務者の解約金支払請求権の発生時期と、銀行が取引先に対して持っていた債権とその解約金支払請求権とを担保として相殺できると本当に期待していたのかという点です。
(注)以下は、判決をわかりやすく書き換えてあります。判決そのままではありません。

本件の事実関係は

(1) 本件受益権に係る投資信託は,投資信託委託会社と信託会社との間で締結された信託契約に基づき設定されたもの。
・上記投資信託委託会社は、M銀行との間で本件受益権の募集販売委託契約を締結し,同銀行は同契約に基づき本件受益権の販売等の業務を行っていた。

(2) 再生債務者は,M銀行との間で,投資信託受益権の管理等を委託する旨の契約(以下「本件管理委託契約」という。)を締結した上で,平成12年1月から平成19年3月にかけて,M銀行から本件受益権を順次購入した。

(3) 本件管理委託契約並びに本件受益権に係る前記信託契約及び募集販売委託
契約によれば,再生債務者が本件受益権について解約を申し込む場合は,次の手順によることとされていた。
ア 再生債務者は,M銀行に対し,本件受益権に係る前記信託契約の解約の実行の請求(以下「解約実行請求」という。)をする。
イ M銀行は,投資信託委託会社に対し,解約実行請求があった旨を通知する。
ウ 投資信託委託会社は,前記信託契約の一部を解約し,信託会社が,M銀行に対し,解約金を振り込む。
エ M銀行は,再生債務者に対し,上記解約金をM銀行の営業所等において支払う。

(4) M銀行は,平成19年1月以降,本件受益権を,社債,株式等の振替に関する法律121条の2第1項に規定する振替投資信託受益権として,口座管理機関であるM銀行が備える振替口座簿に開設した再生債務者の口座に記録する方法で管理していた。
・本件管理委託契約において,再生債務者は,本件受益権について,原則として自由に他の振替先口座(M銀行に開設されたもののほか,他の口座管理機関に開設されたものを含む。)への振替をすることができるものとされていた。

(5) M銀行は,平成20年11月までに,再生債務者に対する保証債務履行請求権を取得した。その残高は,平成21年3月31日時点で約5954万円であった。

(6) 再生債務者は,平成20年12月29日,支払を停止した。M銀行は,同日,その事実を知った。

(7) M銀行は,平成21年3月23日,上記保証債務履行請求権を保全するため,本件受益権につき,債権者代位権に基づいて,再生債務者がM銀行に対して行うものとされている解約実行請求を再生債務者に代わって行い,投資信託委託会社に対し,解約実行請求があった旨の通知をした。

(8) 上記通知により,本件受益権に係る信託契約の一部が解約され,平成21年3月26日,信託会社からM銀行に対し,解約金として約717万円(以下「本件解約金」という。)が振り込まれた。
・これにより,M銀行は,本件管理委託契約に基づき,再生債務者に対し,本件解約金の支払債務(以下「本件債務」という。)を負担した。

(9) M銀行は,平成21年3月31日,再生債務者に対し,上記保証債務履行 請求権を自働債権とし,本件債務に係る債権を受働債権とし,これらを対当額で相 殺する旨の意思表示をした(以下「本件相殺」という。)。

(10) 再生債務者は,平成21年4月28日,再生手続開始の申立てをし,同年5月12日,再生手続開始の決定を受けた。

以上の事実関係の下において、名古屋地裁は、相殺は許されないとしました。
名古屋高等裁判所は、M銀行によって、本件受益権は管理されていたから、受益権解約金支払請求権は、支払停止前の原因に基づくものとして、相殺を認めました。

しかしながら,最高裁は、相殺を認めませんでした。

前記事実関係によれば,
1、本件債務は,再生債務者の支払の停止の前に,再生債務者が被上告銀行から本件受益権を購入し,本件管理委託契約に基づきその管理をM銀行に委託したことにより,M銀行が解約金の交付を受けることを条件として上告人に対して負担した債務であると解されるが(最高裁平成17年(受)第1461号同18年12月14日参照),

2、少なくとも解約実行請求がされるまでは,再生債務者が有していたのは投資信託委託会社に対する本件受益権であって,これに対しては全ての再生債権者が等しく再生債務者の責任財産としての期待を有しているといえる。

3、再生債務者は,本件受益権につき解約実行請求がされたことにより,M銀行に対する本件解約金の支払請求権を取得したものではあるが,同請求権は本件受益権と実質的には同等の価値を有するものとみることができる。

4、その上,上記解約実行請求はM銀行が再生債務者の支払の停止を知った後にされたものであるから,M銀行において同請求権を受働債権とする相殺に対する期待があったとしても,それが合理的なものであるとはいい難い。

5、また,再生債務者は,本件管理委託契約に基づきM銀行が本件受益権を管理している間も,本件受益権につき,原則として自由に他の振替先口座への振替をすることができたのである。

6、このような振替がされた場合には,M銀行が再生債務者に対して解約金の支払債務を負担することは生じ得ないのであるから,M銀行が上告人に対して本件債務を負担することが確実であったということもできない。

7、さらに,前記事実関係によれば,本件においては,M銀行が再生債務者に対して負担することとなる本件受益権に係る解約金の支払債務を受働債権とする相殺をするためには,他の債権者と同様に,債権者代位権に基づき,再生債務者に代位して本件受益権につき解約実行請求を行うほかなかったことがうかがわれる。

8、そうすると,M銀行が本件債務をもってする相殺の担保的機能に対して合理的な期待を有していたとはいえず,この相殺を許すことは再生債権についての債権者間の公平・平等な扱いを基本原則とする再生手続の趣旨に反するものというべきである。

9、したがって,本件債務の負担は,民事再生法93条2項2号にいう「支払
の停止があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合に
当たるとはいえず,本件相殺は許されないと解するのが相当である。

コメント
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1,「破産者に対して債務を負担する者が、破産者の委託を受けないで、破産者の債務を保証する保証契約を締結し、破産手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合、この求償権を自働債権として相殺することはできますか?」に記載した最高裁判決に続いて、債権者たる銀行の相殺を認めませんでした。高裁の判断を覆しました。

銀行が、いろんな金融商品を取り扱うことで、その金融商品に絡んで相殺を認めることになれば、一般債権者や債務者が預かり知らぬところで、担保権を設定したのと同じことになります。最高裁が、相殺を認めなかった事は妥当と言うべきでしょう。銀行は最近保険商品も取り扱っています。そうすると、保険契約を解約して解約返戻金と相殺することもできないのではないかと思われます。下記の判例もそうですが、金融商品に関連した裁判で、高裁の判断が最高裁で破棄されるのが目立ちます。

2,投資信託受益権が遺産の中にあった場合、遺産分割手続きにより分割されるのか、それとも相続人が直接請求できるのかについての最高裁の判決と同じく、今回、最高裁は、高裁の判断を覆しました。
これまでは、資産の中に銀行預金などが多かったのが、「預金から投資へ」の流れて、新たな金融商品が多くなってくると、裁判官も弁護士も、それなりに勉強しないといけません。しかし、この種の金融商品は、なるべく税金を支払わないように、ファンドの責任がないようにと、ことさら複雑な仕組みで、投資する人にとってもちろん、第三者の裁判官等にとっても、理解しにくい仕組みになっています。(2015.1.20)

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