最高裁判所 は、平成30年3月13日、 原判決を破棄した上、名古屋高等裁判所金沢支部に差戻し判決をだしました。事案は、
夫婦と子供2人は、日本人で、平成14年頃米国に移住し、そこで二男が生まれた。二男は、米国と日本国との二重国籍を有している。 平成28年1月ころ、母親は当時11歳3ヶ月の二男を連れて行日本に入国し、共に暮らしている。 父親は、ハーグ条約の実施に関する法律に基づき、二男をアメリカに返還することを命ずるよう東京家庭裁判所に申立て、その旨の決定が出され確定した。そこで、その執行をするため、執行官が母親のもとに行った所、施錠していたために、 2階の窓から立ち入り説得したが、母親は子供と同じ布団に入って激しく抵抗し、二男もこのまま日本にいることを希望しアメリカには行きたくないと述べた。執行不能に終わった。 そこで、父親は人身保護法に基づき二男を返還することを求めた。
名古屋高等裁判所金沢支部は、 二男は,二男代理人と面談し,その際,日本にいることを希望する旨の意思の表明が母親の圧力によるものであるかのように受け取られることは非常に不満である,自己の意思により日本での生活を希望していることを強く主張したいなどと述べた。また,二男は,上記のとおり希望している理由として, ・ようやく日本での生活に慣れてきたのに米国に戻って生活するのは大変である, ・飲酒した父親から,暴言を吐かれたり,けがをする程度のものではなかったものの暴力を受けたりしたことがあり,来日して父親と離れたことで安心した面もある などと述べた。 ・二男は,現在,日本での生活環境になじみ,良好な人間関係を構築して充実した学校生活を送っており,家庭内においても母親と親和して,情緒も安定し,年齢相応に発達を遂げて健やかに成育しているものと見受けられ,また,その判断能力が欠けているなどといった事情はうかがわれない。 これらのことなどを考え合わせると,二男は,自己の真意を曲げて日本にいることを希望する旨の意思を表明したとは解されず,自由な意思に基づいて当該意思を表明したというべきである。 よって,母親の二男に対する監護が人身保護法及び同規則にいう拘束に該当するとは認められず,また,父親の本件請求は,二男の自由に表示した意思に反するというべきである。 として、父親の請求を棄却した。
それに対し、最高裁は 「本件のように,子を監護する父母の一方により国境を越えて日本への連れ去りをされた子が,当該連れ去りをした親の下にとどまるか否かについての意思決定をする場合,当該意思決定は,自身の将来本拠地、・・,国籍選択・・の問題とも関わり得るものである。 このことに照らすと,二男にとって重大かつ困難なものというべきである。また,上記のような連れ去りがされる場合には,一般的に,父母の間に深刻な感情的対立があると考えられる上, 二男と父親との接触が著しく困難になり,二男が連れ去り前とは異なる言語,文化環境等での生活を余儀なくされることからすると,二男は,上記の意思決定をするために必要とされる情報を偏りなく得るのが困難な状況に置かれることが少なくないといえる。
これらの点を考慮すると,当該子による意思決定がその自由意思に基づくものといえるか否かを判断するに当たっては、 基本的に,当該子が上記の意思決定の重大性や困難性に鑑みて必要とされる多面的,客観的な情報を十分に取得している状況にあるか否か,連れ去りをした親が当該子に対して不当な心理的影響を及ぼしていないかなどといった点を慎重に検討すべきである。
これを本件についてみると,二男は,現在13歳で,意思能力を有していると認められる。しかしながら,二男は,出生してから来日するまで米国で過ごしており,日本に生活の基盤を有していなかったところ,上記のような問題につき必ずしも十分な判断能力を有していたとはいえない11歳3箇月の時に来日し,その後,父親との間で意思疎通を行う機会を十分に有していたこともうかがわれず, 来日以来,母親に大きく依存して生活せざるを得ない状況にあるといえる。 そして,上記のような状況の下で母親は,本件返還決定が確定したにもかかわらず,二男を米国に返還しない態度を示し,本件返還決定に基づく子の返還の代替執行に際しても,二男の面前で本件解放実施に激しく抵抗するなどしている。 これらの事情に鑑みると,二男は,本件返還決定やこれに基づく子の返還の代替執行の意義,本件返還決定に従って米国に返還された後の自身の生活等に関する情報を含め,母親の下にとどまるか否かについての意思決定をするために必要とされる多面的,客観的な情報を十分に得ることが困難な状況に置かれており, また,当該意思決定に際し,母親は,二男に対して不当な心理的影響を及ぼしているといわざるを得ない。
以上によれば,二男が自由意思に基づいて母親の下にとどまっているとはいえない特段の事情があり,母親の二男に対する監護は,人身保護法及び同規則にいう拘束に当たるというべきである。 ・・・・したがって,母親による二男に対する拘束には,顕著な違法性がある。
(コメント:名古屋高裁の裁判官と最高裁の裁判官では、同じ事実に対して、評価というか受け取り方が相当違います。 名古屋高裁の裁判官は、子供の情緒は安定し、健やかに成育し、母親と親和し、父親の下には行きたくないと表明したのは、子供の自由な意思に基づくものであるとしています。 ほとんどの裁判官は、このような認定をするのではないかと思われます。当の子供本人は、情緒安定し、母親のもとにいたいと言っているのだから、それの現状のままでいいじゃないかとの判断です。 そこには、子供がどうしてそのように言うのかと考察や最高裁に裁判官が述べている「連れ去りをした親が子供に対して不当な心理的影響を及ぼしていないか」ということを慎重に検討すべきである、 との姿勢が全く欠けているといえるでしょう。)