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中国の判決は,日本で強制執行できますか。

「日中間の判決、相互保証なし」東京地裁、強制執行認めず.
産経ニュース 2015.3.21

中国の裁判所に当たる人民法院が損害賠償を命じた判決に基づき、日本国内でその賠償金について財産差し押さえなどの強制執行が認められるかどうかが争われた訴訟の判決で、東京地裁は20日、「中国で日本の裁判所の同種判決が承認、執行される余地はなく、日本と中国の間には相互の保証があるとは認められない」として、原告側の訴えを棄却した。
・・・今後、同種事案に一定の影響を与えそうだ。
地裁判決によると、今回の訴訟の原告は、書籍『「南京虐殺」への大疑問』の記述で名誉を傷つけられたなどとして、著者と出版社に対し、80万元(約1500万円)の賠償などを求め、・・・人民法院は2006年8月、請求通り80万元の賠償などを命じた。この判決に基づき、東京地裁に強制執行を求めた。
岡崎裁判長は、日本人原告が日中合弁企業を相手取った過去の同種裁判で、最高人民法院が「日本との間に互恵関係は存在しない」として原告の訴えを退けるとの見解を示したと指摘・・「相互保証」が日中間に存在しないと結論づけた。

 

 東京地裁が挙げる同種の裁判かどうかはわかりませんが、平成15年4月9日、大阪高等裁判所の判決があります。事案はちょっと異なります。

 これは家族間の争いです。亡き息子を中心とし 、父と息子嫁(と子)との争いです。中国では、息子の嫁らが、1996年、中級人民法院に、父を被告として、ある合弁会社の出資金30万ドルは亡き息子が出資したもので自分たちが相続したから、その権利の確認を求める、という訴えを起こしました。中級人民法院の判決は、息子嫁らに出資の2分の1の権利の確認を認めました。これは上訴されましたが確定しました。

そこで、父が、日本の大阪地方裁判所に、父が上記合弁会に出資金30万ドル出資したことの確認を求める、との訴えを提起しました。

大阪地方裁判所は、上記中国の判決は日本の民事訴訟法118条の要件を有するとし、本件は紛争の蒸し返しであるから訴えの利益はない、として却下しました。

そこで、大阪高裁は、まず、中国の判決が日本の民事訴訟法118条の要件を満たすか否かについて検討するに当たり、大連市中級人民法人の1994年 11月5日決定を挙げています。

大連市中級人民法院の事案は

横浜地方裁判所小田原支部の貸金請求事件の判決について、熊本地方裁判所玉名支部が差し押え譲渡命令を出しました。この申立人が、大連市中級人民法院に、この判決と差押え及び譲渡命令の承認と強制執行を、申し立てました。
これについて、中国の最高人民法院は、 1994年6月26日、「わが国と日本は、相互に裁判所の判決、決定を承認、執行するとの国際条約を締結していない。相互の関係も作り上げられていない。民事訴訟法268条の規定に基づき、人民法院は、日本の裁判所の判決を承認、執行しない。・・・それで、日本人申立人の執行の申立てを却下するとの意見に同意する」と回答をしました。そこで、大連市中級人民法院は申立てを却下しました。

 大阪高等裁判所は、「・・・・以上の取り扱いによれば、本件人民法院判決は、民事訴訟法118条4号の要件を満たしているものとは認めることができない。」としました。そして、本件は紛争の蒸し返しではないとして、大阪地裁の判決を取り消し、差し戻しました。

ただし、離婚のような家事事件の和解、審判・判決等では、別の取り扱いがなされているようです。