これは、高山寺の鳥獣戯画で有名な鳥羽僧正の遺言書のことです。 鳥羽僧正は、天皇の帰依を受けて財産もたくさんありました。 そして88歳くらいで亡くなりました。 弟子たちは、いつの時代でもそうですが、仏教の教えよりもお金のほうに関心を持っていました。 中には、刀にかけても取ってやる、と思っている者もありました。
いよいよ、僧正が亡くなりました。弟子たちは遺言状を探しました。遺言状は出てきました。 遺言状の中には、現在の遺言書にあるように「00に何々をやる」とは記されていませんでした。そこには、「この遺産の分配については、弟子どもは腕ずくで取り合いせい」と書いてありました。 まさに、弟子達の物欲の心を見通し、その心を鷲掴みにするような内容です。 遺産を狙う相続人の心を突き詰めて考えた遺言状でした。 遺産を狙う弟子たちは、その心を見透かされ、結局穏便に処置したということです。
この逸話が、900年たった今でも、語り継がれていることがすごいです。語り継ぐ人々は、僧正が、相続人の心理を理解し、遺産争いで相続人がどういう行動に出るか見抜いて作ったことに、感心しているからでしょう。
翻って現在はどうでしょうか。 2004年2月発行の判例タイムス、東京家庭裁判所家事第5部による「遺産分割事件処理の実情と課題」によれば、遺言書の絡む事件は増大している、とのことです。 弁護士が作成している遺言書の本によれば、「相続を争族争いにしないように遺言書を作成しときましょう 。」というキャッチフレーズが載っています。 しかし、現実には、せっかく遺言書を費用をかけて作っても、遺言書の絡む事件は増大しているとのことです。遺言作成者にとって、亡くなってしまえば、その後のことは、どうにもなりません。相続人しだいです。
遺言書を作成する際は、単に、どの財産を誰に残そうというだけでなく、くれぐれも相続人の心理、経済状況、収入、財産、相続人の子供の数、物欲の強さ、相続人の配偶者の物欲の強さ、などを突き詰めて考えて作成する必要があります。(2014.11.24)
「生まれ子が 次第次第に知恵づきて 仏に遠くなるぞ 悲しき」という昔の歌もあります。しかし、昔も今も同じです。
最近(2017.9.12)、母親が亡くなり、その娘が、遺産3000万円を家政婦に遺贈した遺言書が無効と言って、裁判した事例の報道がありました。遺言書は有効との判決が出ました。娘は、母親に無心ばかりしていたとのことです。母親としては、親孝行の一つもしない娘にうんざりしたのでしょう。相続人が、相続する権利があると思い込んで親孝行の一つもしないとこういう事例が増えるのも当然です。
大実業家で莫大な遺産を残しても、その相続人が幸福かというとそうでもなさそうです。調べればすぐ分かりますが、戦後の著名な実業家の相続人が欲を出し、脱税で服役している例もあります。(2014.12.21)
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