再建の殿様・鍋島直正公伝(久米邦武著)を読む(1-0-2) ー鍋島直正公伝の概要ー幕末の日本の事情
鍋島直正公伝第1編 目録
第1編 公の出生以前と幼時
序論(鍋島直正公伝の概要)
幕末の日本の事情
翻って日本を見てみれば、国民は天下太平に慣れて、のんびり怠惰な風潮で、徳川家康が養った質実剛健の気風はなくなってしまい、徳川が成し遂げた偉業は、未だ5代を経ていないのに、早くも衰退を来たした。
すなわち、 3代家光までは、若くして家督を継ぎ、その天性も凡庸でなかったために先祖の業績を失墜しなかった。ところが、綱吉の代になると政治はその実質を失って形式に流れ、家康がなくなって、わずか80年に満たないのに、徳川幕府創設の精神は喪失した。綱吉が文学を好み、昌平黌を設立して、全国を文武に導きたるは、業績でない訳ではないが、他方で、迷信のために晩年の政治を誤り、ひたすら京都風を学びて、奢り高ぶるようになって、いわゆる元禄の派手な時代を生み出した。
他方で、経済政策を何ら講ぜず、財政の不足をただ貨幣を乱造し、御用商人に御用金を課して補い、一時的にやりくりをするだけであった。そのため、封建の勢いも長く保つ事はできないという限界に達した。