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面会交流権を侵害したとして、70万円の損害賠償を認めた事例。

面会交流権を侵害したとして、70万円の損害賠償を認めた事例

横浜地方裁判所は、平成2 1年7月8日、監護親が、当時7・8歳の長女の面会交流の調停合意を尊重せず、非監護親の面接交渉権を侵害したとして、債務不履行に基づき70万円の支払いを認めました(請求は300万円) 。
判決文では、監護親が父か母かはわかりません。( 注 判決文に加工してます。)
控訴されるも控訴棄却。

「長女は、当初は非監護親と普通に接していたが、監護親と非監護親の離婚裁判過程において、次第に非監護親と面会することに拒否的な感情を抱き、「うざい」と述べるようになった。
非監護親による面接交渉の頻度・態様等に係る要求や学校行事への参加が監護親の心理的な負担となり、あるいは監護親の感情を害したことが契機となって、監護親が面接交渉を拒否するに至った経過があるしても、
監護親が、平成17年以降、面接交渉を拒絶したことについて正当な理由があったとはいえず、監護親は、非監護親に対して、本件合意の不履行について、債務不履行の責任を負うことを免れない。

・・長女が示した非監護親に対する否定的な感情は、監護親が面接交渉に対して消極的であることを、長女が認識したものであるから、監護親の感情に対する配慮が介入している可能性が大きい。これで、長女が・・・の時点から、面接交渉について消極的意向を有していたと認めることはできない。
・・・面接交渉権は、未成年者の子の非監護親の権利として構成されているが、第一次的には未成年の子の福祉に資する目的で行使されるべきものである。子が面接交渉を拒絶する明確な意思を有している場合は、子の福祉の観点から面接交渉権は制限される。

ただし、長女が面接交渉について消極的意向を形成する過程において、監護親が平成17年×月以降面接交渉に応じていなかったことが相当程度影響を及ぼしていると考えられる。
長女にとって最も重要で密接な人間関係にある監護親の感情や言動は、監護親において、特に意図しなくても、長女の心理に影響を及ぼすことが当然に考えられる。
したがって、監護親が本件(面接交渉の)合意の不履行に際して、長女に対して非監護親との面接交渉を中断することを説明したり、離婚判決確定後に、長女に本件合意が効力を失った旨説明した行動や、その他、非監護親から長女に送られてきたプレゼントを送り返したりするなどの行動を取った際に、
長女に対して、監護親の非監護親に対する嫌悪感、不信感及び非監護親が長女と交流することを快く思わない気持ちが、監護親の言動から自然に長女に伝わり、
長女は、・・・次第に、自分にとって重要で密接な関係にある監護親の感情への共感を強めていく過程をたどったものと考えられる。

そして、面接交渉が中断されていたために、非監護親と長女との間に十分な交流の機会が与えられなかったことにより、長女に非監護親に対する共感ないし配慮の心理を十分に形成する機会が与えられなかった。このことで、長女の意識の中で非監護親の言動に対する否定的な側面が相対的に強化され、長女の面接交渉に対する消極的な意向を形成することとなったものと考えられる。
したがって、長女が非監護親との面接交渉について消極的な意向を有するに至ったことについても、・・・、監護親に、相応の責任があるというべきである。」

本件では、その後、監護親が審判の申し立てをし、平成21年に、
「長女から面会の目的で非監護親に連絡した場合にのみ長女の希望する日時、場所、方法で長女と面会交流することができる。」
「非監護親は、長女に連絡してはならない。」
との審判がなされています。

コメント
非監護親がストーカーみたいに扱われています。おそらく、非監護親を「うざい」と呼ぶ長女が、非監護親と面会交流することはないでしょう。離婚前は通常の親子として交流があったわけです。離婚後、子の福祉(子の意思尊重)の観点からでしょうか、このような結果となりました。非監護親に対して無慈悲な審判のように思えます。裁判所としては、もう少し、「子の福祉」を、形式的に「子の意思」に従うのではなく、実質的に、何が子の幸福になるのか、という配慮が必要だったのではないでしょうか。

この点について、東京高裁平成26年3月13日の決定は、「子供の利益は、現在の子供の意思に任せて、父親との面会交流をしないまま放置しておくことではなく、・・少しずつでも子供と父親との面会交流が実現するように、出来る限り環境を整えつつ、子供と父親との面会交流を少しでも実現させ、子供において母親を介して得られた情報によってではなく、直接自ら父親と会って得られた情報によって、父上を認識することこそ必要なものである。」と踏み込んだ決定をしています。

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