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時代の変革期に、日本人は、どう行動したか?—鍋島直正公伝(開国史、久米邦武著)を読む(0-1)

時代の変革期に、日本人は、どう行動したか?—鍋島直正公伝(開国史、久米邦武著)を読む(0-1)

時代の変革期に、日本人は、どう行動したか?—鍋島直正公伝(開国史、久米邦武著)を読む(0-1)

時代の変革期に、日本人は、どう行動したか?—佐賀藩を雄藩にした鍋島直正公伝(開国史、久米邦武著)を読む(0ー1)

鍋島直正

鍋島直正

これは、鍋島(佐賀)藩の藩主 鍋島直正の伝記です。著者は久米邦武です。岩波文庫「米欧回覧実記」の著者で有名です。

 鍋島直正は、幕末から明治にかけての佐賀藩の藩主です。貧乏を極めた鍋島藩を復興させ、幕末から明治にかけての日本の変革期に、薩長土肥の1つとして日本の進路を導き、日本で活躍する多くの人材を育てあげました。

なお、鍋島藩の領地は、大雑把に言えば、現在の佐賀県から唐津市(唐津藩)を除き、長崎県の諫早市を加えた範囲です。長崎市は天領(幕府直轄地)でしたが、佐賀藩は福岡藩と共に長崎の警護を担当します。負担と同時に名誉な地位でもありました。。

 著者の久米邦武は、岩倉使節団に参加し、「特命全権大使 米欧回覧実記」の著者です。一般には、こちらの著者としての名声が高いです。フランス人トクビルがアメリカについて書いた「アメリカの民主主義」にも匹敵すべき、日本人が書いた米欧論とも言うべきものです。この米欧回覧実記は、岩波文庫の1つとして出版され、慶應義塾大学出版会から現代語訳も出てます。 ところが、「鍋島直正公伝」は限定出版で、一般には公開されていなかったために、久米の著作としても挙げられていません。久米の業績を伝える久米美術館にも、強調されていません。

 しかし、これを読みますと、久米は、映画でも観るかのように、幕末の激しい変革期に、当時の人々が次々と展開していく状況の中で、どう考え、どういう利害損得の判断のもとに、どう行動していったかを、生き生きと描き表しています。

 まず、当時の時代背景を簡潔に説明します。そうして、人々はどのように行動したかを、合理的に考証します。その判断は明快です。人物描写もその深層心理に迫り、どうしてそのような行動をとったのかを浮かびあがらせています。よくある郷土史家の賛美一点張りの伝記とは、次元を異にします。

 すなわち、「歴史の事実は連鎖の如し。一部を明らかにせんと欲せば、前代にさかのぼり、後世にわたり、世界の大勢にかんがみ、国内の潮流に考えて、これを研究考察しなければ、その真相知ること難し。これ直正公の前代以前より筆を下し、もって公の隠居後の時代に及べるゆえんにして、あるいは、西力東漸の歴史を説き、あるいは幕府諸藩の動静を論じ、もってその関係の影響するところをあきらかにせむと勉めたり。ゆえに、本伝記は、ある点より見れば、世界に対する開国史と断ずることをうべし。ある点より論ずれば、佐賀藩を中心としたる幕末維新の歴史と解することをうべし。」

 現在のような速報性を求められる新聞等と本書のようなじっくり考証できる歴史的伝記とを比較するのは、妥当でないかもしれませんが、現在のマスコミは、忙しく、情報過多で、考える時間がないのか、ほとんどが事件あるいは、当局発表のニュースをそのまま報道するだけで、その背景・意味合いは、ほばわかりません。

 例えば、日本経済新聞は、日経平均株価が、やや上がったとき、「警戒水域か?」という評価をしていました。しかし、その後株価が上がり続けた後、「まだ過熱感はない。」と言ってました。うんざりです。社説も、海外の経済関係の論説があると、書くネタがないのか、それに乗っかった思い付きの社説です。これまたがっかりです。ホットな話題だけで、中身が伴いません。

 NHKのニュースも、公正さを保つためか、形式的に賛成・反対の意見を報道しています。そのため、全体の中での当ニュースの位置づけが分かりません。

 また、視聴率を上げるためか、比較する場合も、ことさら異なる点を強調します。さらに、歴史的な経過を考えず、世界の・日本の中での位置づけも不明で、真の背景を理解できません。 しかし、これらに比べて、この本は、明快に本質に迫っています。

 これは、 100年以上も前の鍋島藩(佐賀藩)を中心にした幕末・明治の歴史ですが、時代の変革期に、日本人がどのように行動したか、現在にも通用するものが多くあります。日本人の行動原理は、ほとんど変わっていないようです。 以下、ブログ主が関心を持って、読んだ所を紹介します。この本が埋もれてしまうのは、日本にとって惜しい。

 原典は、近代デジタルライブラリーに公開されています。全6巻で、7巻目が、索引・年表です。各巻300ないし700ページあり、難点は、長すぎ、読むのに苦労するということです。また、「特命全権大使 米欧回覧実記」のように、漢字とカタカナ交じりではなく、漢字とひらがな交じりで読みやすくなっていますが、漢字が難しく、最近の学生向けの漢和辞典にも載っていない漢字も出てきたり、漢詩も時々出てきて、その素養のないブログ主には、難しいです。

 ブログ主は、学者ではありませんので、分からないとことは、前後から推測するか読み飛ばしていきます。なんせ相当の長編なので、読了するには相当の時間がかかります。しかし、それを上回る面白さです。アマゾンで、この古本を探すと、全7巻で27万円で売りに出てました。売主がその値段でも売れる価値があると評価したのでしょう。

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