倒産時、不動産を巡る攻防。倒産と登記(2)
登記手続を延ばしてはいけない。登記義務者が危篤でも手を緩めてはいけない。
判決事例
原告=商工中金 VS 被告=再生債務者と監督委員
事案
被告Mは、「酒の・・」という屋号で、大阪府・兵庫県・福岡県において酒類ディスカウント店を展開している。 本件建物は、本社機能を持つ旗艦店として建築された。本社周辺に点在する店舗及び物流拠点を一括集約化したものである。したがって、被告Mの事業にとっては、必要不可欠の不動産である。本件貸付は、本件建物の建築資金のために実行した。・原告/商工中金/箕面船場支店は、本件土地から道路を2本隔てたのみという非常に接近した場所にある。 ・ 平成19年9月28日 原告は、 被告Mに上記資金として2億円の貸付をした。 ・貸付に際し、被告Mは、原告に対し、平成20年2月29日までに、本件貸付により借り受けた資金で新設する本件建物につき極度額2億円の根抵当権を設定して担保提供することを確約した。 ・平成19年10月29日、 本件建物は、新築完成し、 同年11月30日に表示登記がされ、 同年12月11日受付をもって被告Mの所有権保存登記がされた。 平成19年12月27日には、 原告は、被告M名義の所有権保存登記がされたことを知り、根抵当権設定契約書の作成及び登記申請の準備に着手した。 平成20年1月10日に被告Mの代表取締役M・Tが急死したため、代表取締役の登記手続が同月17日付けでされるまで準備が中断した。 平成20年1月29日 原告と被告Mは、本件根抵当権設定契約の契約証書を作成し、司法書士に対する登記委任状に原告と被告Mが調印した。根抵当権設定登記手続は被告Mにおいて行うことを合意した。 平成20年2月13日、被告Mは、民事再生手続開始の申立てをして、 同月20日、再生手続開始決定を受けた。
・大阪地方裁判所 平成20年10月31日(判タ1300.25)
1 再生債務者は,民法177条の第三者にあたるか否かー(積極)
2,再生手続開始前に登記をしなかった根抵当権者(商工中金)が,再生債務者に根抵当権設定登記手続を求め,監督委員にその登記手続への同意を求めた請求が,いずれも棄却された。
コメント:判決は、 「平成20年1月29日に登記申請書類がととのった際に、被告前田において根抵当権設定登記申請をする旨の約束を原告としておきながら、それから15日後の翌月13日の民事再生手続開始の申立てがされるまで登記がされなかったことが認められる。根抵当権設定契約後、民事再生手続開始の申立てに至るまでの間の経過を常識的に評価すれば、これは、既に法的倒産処理手続の準備に着手していたため、根抵当権の登記を意図的に遅らせたものと認めざるを得ない。」としつつ、上記の商工中金の請求を認めなかった。
不誠実な債務者→再生手続開始決定で、再生債権者のための第三者機関へ変身する。
・原告・商工中金は、再生計画案への同意は反対したと思われるが、負債総額が109億円で、賛成が多かったのでしょうか。
・民事再生手続の委任を受けた弁護士は、本件登記義務は知っていて、何とアドバイスしたのでしょうか?
ウィキペデイアによると、「酒の・・」は
「2008年2月15日 – 民事再生法適用を申請。
負債総額は109億7200万円
2008年6月24日 – 「株式会社やまや」との間で事業譲渡に締結、株式会社Mは分割会社となる。
2008年7月24日 – XX株式会社が設置され、承継会社となる。
2008年10月1日 – 「株式会社やまや」との間で吸収分割が実施される。」
教訓=登記手続を延ばしてはいけない。登記義務者が危篤でも手を緩めてはいけない。
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